参院本会議で11日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認案と同協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の趣旨説明と質疑が行われ、民進党・新緑風会から質問に立った浜口誠議員は、(1)米国大統領選挙の結果を踏まえた現状認識(2)政府の秘密主義に対する国民の理解度(3)国内産業への影響と対策(4)農業への影響と対策(5)医薬品の知的財産保護の強化(6)食の安全――等の問題を取り上げ、安倍総理らの見解をただした。
質問の冒頭、浜口議員は衆院本会議で10日、TPP協定と関連法案が強行採決されたことに言及し、「安倍総理が『結党以来、強行採決をしようと考えたことはない』と国会で断言したにも関わらず、こうした暴挙に至った政府・与党の傲慢な国会運営に対し、満身の怒りをもって厳重に抗議する」と非難した。
そのうえで、TPP脱退を表明しているトランプ氏が米国大統領選挙で勝利したことを踏まえると「TPPが発効しない可能性が極めて高くなった」との見方を示し、「日本だけが何の軌道修正もせず手続きを進めていることは、全く理解できない。今、政府がするべきことは、速やかに予算委員会を開き、国民や金融・マーケットに対し、経済問題や日米関係の今後の展望について、政府としての明確なメッセージを発信することだ」と指摘した。
浜口議員は安倍政権が進めようとする今回のTPPは、対象が農林水産物、工業製品だけでなく、食の安全・安心、医療・医薬品分野、政府調達、金融・共済、知的財産権などにもおよび、過去最大級の経済連携協定で、非常に複雑で中身も分かりづらいと多くの国民が感じていおり、政府の秘密主義の前に国民の理解度は深まっていないと指摘。交渉過程が記録された資料が「のり弁」と称されるほどの黒塗りであったことをも問題視。また、SBS米の調整金に関する調査が不充分かつあいまいな内容だったことにもふれ、国益・国民の生活や社会に大きな影響を与える重要な協定だからこそ、政府の対応は国民に対して正直であるべきとして、政府の対応の不十分さを批判した。「他の参加国は時間をかけてじっくり議論している状況にも関わらず、日本だけが、国民の理解や合意形成が不十分な中、なぜ早期に結論を出すことが必要なのか」と述べ、安倍総理に納得のいく説明を求めた。
安倍総理は「わが国がTPP協定を承認し、自由で公正な貿易をけん引する姿勢を示せば保護主義のまん延を食い止める力になる」などと述べたが、米国の変化に対応した日本としての展望については何ら語られなかった。またSBS米の調整金の問題についても「制度に対する信頼を損なうことのないよう丁寧に説明していくが、TPP協定の是非とは別個の問題」だなどと述べるにとどまった。
自動車部品の米国への輸出に関して浜口議員は、「一部の部品で関税撤廃までに10年を超える長い期間のものもあるが、8割以上の部品で即時関税撤廃となり、米韓FTA(自由貿易協定)を上回る水準になっていること。また、原産地規則の統一化、労働分野でのILO中核的労働基準の明記、知的財産権の保護、輸入手続きの簡素化がすべての参加国で共通化されること。こうした点については、率直に評価したい」との認識を示した。
一方、「大企業だけでなく地域の中堅・中小企業にもTPPのメリットが及ぶ」と政府は説明してきたが、ジェトロの調査では輸出でのFTA利用率は大企業50%超に対し、中小企業は33%程度に止まっている現状を踏まえ、浜口議員は中小企業のFTA活用をさらに進めるための具体的方策の提示が不可欠だと問題提起した。
また、米国への自動車の完成車輸出にかかる関税撤廃に長期間を有することになったことについては、輸出台数に影響し、国内の生産台数の確保や雇用維持の観点からは課題を残したとの見方を示し、今後交渉を進めていく経済連携ではTPP協定で米国と合意された乗用車等の長い関税撤廃期間を前提としないよう約束してほしいと迫ったが、明確な答弁はなかった。
投資家と投資受け入れ国との間の紛争解決手続きであるISDSについても質問。政府が、これまで結んできた33のEPAや投資協定にもISDSは含まれており、(1)日本は一度も提訴されていない(2)提訴までのハードルが上がっている――ことなどを根拠に「懸念はない」と繰り返し説明しているが、2015年末までにISDSに基づく国際仲裁は累計696件あり、うち米国企業・投資家が原告となっているものは138件と多いことから、訴訟大国・米国とのISDSに対して懸念する声が多くあることを指摘し、石原大臣に十分な対応を求めた。
農業への影響と対策に関して、農業重要5項目について質問。国会決議が重要5項目を冒頭で取り上げ、(1)再生産可能となるよう除外、再協議の対象とし(2)10年を超える段階的な関税撤廃も認めない――としたことに浜口議員は、「この決議は、与野党問わず農林水産業関係者の強い思いを受けて、まさに魂を込めて作られたもの」と語った。ところがTPP協定ではこの国会決議は守られず、重要5項目の594品目のうち、170品目で関税を撤廃した。その一方、牛肉の輸入急増を防ぐためのセーフガードが将来廃止されてノーガード状態となる可能性があること、関税収入を財源とする畜産農家への経営支援制度の通称「マルキン」が、TPPによって牛肉関税収入が約680億円減少すると推計されることから、今後の市場価格の下落に加え、支援金も減少するのではないか畜産農家が大きな不安を抱えていることなどの問題を列挙。「このような状態で、再生産可能を求めた国会決議に反していないと本当に言えるか疑問だ」と断じた。
また、SBS米の調整金に関する政府の調査結果があまりにも不十分かつあいまいであることも問題視、「これでは農業関係者をはじめ、国民の不信感を払拭することはできない」として再調査を農林水産大臣に求めたが前向きな姿勢は示されなかった。
浜口議員は、「外交交渉で『100』か『ゼロ』かの交渉結果はあり得ない。だからこそ、民進党はTPPの全体像や国民生活へのメリット、デメリット両面を明確にしていく。総理が国家百年の計と言われている今回のTPPが、将来、わが国と国民に禍根を残すことのないよう、国民目線で徹底的に、とことん審議していく」と宣言した。