今年2月、インターネット上に匿名投稿された「保育園落ちた」のブログ記事をきっかけにあらためてクローズアップされた待機児童問題。旧民主党時代から一貫して「チルドレン・ファースト」を掲げてきた民進党はこの問題にどう取り組んでいるのか。この間の経緯を振り返る。
◆[保育・待機児童問題 「質の確保」と「量の拡大」の両立を]◆
■鈍感な政府の対応
子どもが保育園の入園審査に落ちた憤りを国にぶつけた匿名ブログ記事「保育園落ちた日本死ね!!!」。2月29日の衆院予算委員会で山尾志桜里議員がこのブログを取り上げた際には「実際に起こっているかどうかを確認しようがない。議論のしようがない」と全く気にかけていなかった安倍総理。これに対しネット上では瞬く間に怒りの声が拡散。入所できる保育施設を探す「保活」中の母親や子育て経験者などの、保育制度の充実を求める約3万人の署名がその後約10日間で集まった。3月9日には、ネット署名運動の賛同者が山尾議員に署名簿を手渡すとともに、塩崎厚生労働大臣にも直接提出し、内容を受け止めて対策をきちんとやってほしいと求めた。
こうした事態に安倍総理も「待機児童ゼロを必ず実現させる」と軌道修正。6月に閣議決定された「ニッポン1億総活躍プラン」では保育士の給与を一律月額2%(約6千円)アップ等を盛り込んだ。しかし、全産業平均と比べ月11万円あまりの賃金格差解消にはほど遠い内容で、財源も示されていない。安倍政権では保育の受け皿確保を対策の軸としているが、民進党はハコモノばかりを優先し質の確保を軽視し、命を危険にさらすような政策はとらない。
■問題解決は、保育士不足の解消から
民進党(当時は民主、維新)をはじめ野党4党は3月24日、待機児童の解消に保育士の待遇改善が不可欠との考えのもと「保育等従業者の人材確保等に関する特別措置法案(保育士等の処遇改善法案)」を衆院に共同提出した。本法案は、(1)保育等従業者の給与を平均して1人当たり月額5万円引き上げるための助成金を支給する(2)児童養護施設の従業者などの処遇の改善のために必要な措置を講ずる――という内容。
4月には、党待機児童緊急対策本部等での当事者からのヒアリング等も踏まえて「待機児童解消に向けた緊急提言」を取りまとめ、待機児童解消に向けて政府へ提言している。
■処遇改善に向け法案成立を
10月12日の衆院予算委員会で待機児童問題を取り上げた山尾議員は、「(保育士等の給与の月額)5万円アップは、例えば今20%の金融所得課税を25%まで上げれば大体見合いの財源ができる」と指摘。9万人の保育士不足、安倍政権で増えてしまった現在2万3533人の待機児童の実態を示し、まずは野党案に賛成するよう呼びかけた。
◆[年金問題・GPIF 巨額の運用損出しながら 組織改革は不十分]◆
現在国会で審議中の「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案」、いわゆる年金カット法案は、名目手取り賃金が減少した場合に、従来の仕組みより年金額の減少率を大きくするのが改定の柱の一つ。これだけではなく年金カット法案には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に関する規定も盛り込まれており、GPIFの問題が争点となっている。
安倍政権が2014年10月に年金積立金の株式への投資を24%から50%まで倍増させたあと、GPIFは昨年度と今年度の15カ月で10兆円以上の運用損を生んでいる(図参照)。
老後の安心を保障する年金積立金を危険にさらすことはあってはならない。野田佳彦幹事長がこの問題を本会議でただすと、安倍総理は「短期的な評価損によって年金財政上の問題は生じない」と高を括っている。巨額の運用損を生じさせているにもかかわらず、GPIFの理事長の報酬は3131万円で、99ある独立行政法人のなかで最高水準になっている。玉木雄一郎衆院議員が質疑でこの点をただすと、塩崎厚生労働大臣、安倍総理は「他の、世界の同様の組織での報酬と比べてみて特異な存在では全くない」「国際標準的に見なければ有能な人材は今集まらない」とそれぞれ答弁。問題なしとの認識を示しており、国民感覚とのズレが際立っている。こうした認識の下に作成された年金カット法案は、年金積立金の運用や理事長の報酬の問題への対応策を何ら盛り込んでいない。
また、年金カット法案は、GPIFに合議制の経営委員会を設けるとしている。経営委員会は、年金積立金のポートフォリオ等の重要方針を決定する役割を担うことになるため、年金保険料を支払う労使の意見が十分に反映される仕組みにすることが必要だ。しかし、法案では経営委員会の10人の構成員のうち、労使の代表はそれぞれ1人のみとされており、このままでは労使の意見が十分反映されなくなってしまう。
年金カット法案には、年金改定ルールの見直し以外にも多くの問題があり、拙速な審議は許されない。
民進党の考え
年金積立金の運用は被保険者の利益、確実性を考慮し、株式運用倍増をやめ、株への投資を減らし、堅実で最適の運用を目指す。公的年金の積立金は、労使をはじめとするステークホルダーが参画するガバナンス体制を構築する。
無年金者64万人を救済
年金受給に必要な保険料支払い期間を25年から10年に短縮するいわゆる無年金者救済法案が今国会で成立する見込みだ。これにより2017年10月から新たに約64万人が年金を受け取れるようになる。年金受給資格期間の10年への短縮は、民主党政権時の2012年8月成立の「年金機能強化法」で消費税率10%引き上げと同時に実施すると決めたもの。当初は消費税率10%への引き上げで財源を確保し実施する予定だったが、安倍政権下での引き上げ延期を受け2年近くも遅れていた。同改正案では消費税率10%への引き上げ時としていた施行時期を来年8月に変更。民進党は施行時期を来年4月とする修正案を提出したが否決され、原案に賛成した。
安倍政権は当初年金カット法案との一括審議を求めてきたが、民進党をはじめとする野党は保険料支払い期間が短いために無年金となっている方を救済するためにも両案を切り離すべきと主張。この求めに与党が応じ、無年金者救済法案を先行審議したことで早期成立の見込みとなった。
(民進プレス改題16号 2016年11月18日より)
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