参院予算委員会で29日午前、2016年度政府予算が与党などの賛成多数で可決した。
民進党を代表して反対討論に立った西村まさみ議員は、アベノミクスの旧3本の矢が打ち出されてから3年以上が経過した現在の状況について、(1)第1の矢である金融緩和を続けても物価上昇はいまだ目標の2%にも遠く及ばない(2)第2の矢である財政出動は一時的に重要を拡大するのみでむしろ不要不急な公共事業の温存と言った弊害をもたらしている(3)第3の矢である成長戦略については具体性や実効性に乏しく、成長力向上の兆しはまったくない――等と指摘。そのうえで「アベノミクスの失敗を放置し、効果の検証や反省も不十分なまま編成された2016年度予算は断じて認められない」と表明した。
反対理由として(1)本予算は格差の拡大を何ら是正するものとなっていない(2)新たな3本の矢である政府目標と、その実現のための手段が具体性を欠いている(3)政府が国民との約束をほごにしている(4)財政規律を軽視した予算となっている――等も指摘し、「本予算の公共事業関係費は、民主党政権時の当初予算に比べ3割も増加する一方で中小企業を支援する予算を減額した」「税収については前年度当初予算と比べ3兆円の増加を見込んでいるが選挙を控えて抜本的な歳出削減を避ける一方、もっぱら税収増という希望的観測を依頼し、財政健全化を成し遂げるどころか、むしろ悪化させる予算だ」と断じた。
討論採決に先立ち行われた締めくくり質疑では前川清成議員が質問に立った。冒頭、「格差が拡大し、若者や子どもたちが将来に希望を持てなくなってきている」と指摘。安倍総理に対し、格差が拡大しているという認識があるかをただすと、安倍総理は相対的貧困率が緩やかに上昇しているがその背景には高齢者の増加が影響しているとの考えを示した。前川議員は安倍内閣になって実質賃金が下がり続けている実態を取り上げ、「実質賃金が下がれば暮らしは厳しくなるばかりだ」と指摘。相対的貧困率が16%を超えた実態を前川議員が問題視すると、安倍総理は相対的貧困率と絶対的貧困率の違いを持ち出し、絶対的貧困率は必要最低限の生活を維持するのに必要な物資を購入できる所得水準に達していない人々の割合だが、相対的貧困率は購買力や生活水準よりも国内の所得分布や格差の指標であり、貧困そのものと同義語ではないなどと説明した。前川議員が相対的貧困とは何か、どの程度の暮らしぶりをいうのか確認を求めると、安倍総理も塩崎厚生労働大臣も明確な所得水準を提示することができず、前川議員は「相対的貧困を理解せずに議論していることに驚く」と不快感を示し、国民の窮状を他人事と考えている実態が透けて見える安倍政権の姿勢を批判した。
金融資産をまったくもたない世帯が3割に達している実態については、「預貯金が1円もないというのは病気で働けなくなったら直ちに生活できなくなり、子どもの入学金など出せないということ」だと前川議員は述べ、格差というより貧困の広がりが深刻だと懸念を示した。前川議員はこの40年間で消費者物価は2倍になっていないのに国立大学の学費は10倍以上になっている実態も取り上げ、非正規雇用が拡大し年収200万円以下の家庭が増えるなか、保護者の所得に子どもたちの学びが左右され、教育格差が生まれていることを問題視した。前川議員は民主党政権では高校授業料無償化を実施し、学びたい子どもたちが学べる状況を生み出したことにもふれ、子どもたちの学びを確立するため、奨学金制度の見直しや大学授業料の見直しなどに国として力を注ぐべきだと指摘した。
前川議員はまた、特定秘密保護法も安保法制も選挙公約で示すことなく、選挙後に行われた国会で安倍自公政権の強行によって成立させた経緯を取り上げ、憲法改正への動きを見せている安倍総理に対し、来る参院選では公約に堂々と掲げるよう注文をつけた。