衆院本会議で29日、「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案」、いわゆる年金カット法案の討論・採決が行われ、与党の賛成多数で可決した。民進党は、国民生活に大きな影響を与える年金カット法案を、与党がわずか19時間の審議で一方的に採決を強行したことに強く抗議し、討論で反対意見を表明したうえで採決前に議場から退席した。
年金カット法案の採決に先立ち、丹羽秀樹衆院厚生労働委員長解任決議案、塩崎恭久厚生労働大臣不信任決議案の趣旨説明、討論、採決が行われ、それぞれ与党の反対多数で否決された。第192臨時国会会期の14日間延長は与党の賛成多数で可決された。
■年金カット法案
「年金カット法案」に対する反対討論で井坂議員は、「国民年金法の重要広範議案は、衆議院で常に30時間前後の審議が行われてきた。しかし、年金カット法案の委員会での質疑時間はわずか19時間」と指摘し、短い審議時間での採決に抗議した。
また、「年金カットの新ルールが発動されると、1度下がった年金は2度と物価に追いつくことがなく、受給開始後の年金の実質価値は一方的に下がり続ける」と実態を示し、現在の高齢者だけではなく、将来世代の年金が下がってしまう危機を訴えた。
さらに、民進党が年金カットルールが発動される場合の試算を出すよう再三にわたって政府に要求したことに対して、厚労省がは最後まで拒み続けたことについても「新ルールでいくら年金が減るのかという初歩的な質問にも答えられないのであれば、十分な法案審議はできず、採決などできるはずがない」と批判した。
井坂議員は、「将来世代がまともな年金額を受け取るためには、年金制度の抜本改革が必要だ。その場しのぎの年金カット法案で今の制度を温存することは、改革の先送りであり、将来世代にツケを回すだけになる」と指摘し、「政府は3党合意に基づき社会保障制度改革国民会議で決められた通り、今の高齢者から将来世代まで、まともな金額の年金がもらえるように、年金制度の抜本改革に今すぐ取り組むべきだ」と訴えた。
■衆院厚生労働委員長・丹羽秀樹君解任決議案
「厚生労働委員長・丹羽秀樹君解任決議案」の審議では、趣旨説明を民進党の大西健介議員が、賛成討論は阿部知子議員が行った。趣旨説明で大西議員は「厚生労働委員長は去る25日、職権で年金カット法案の審議を強行して採決を行った。国民生活を左右する極めて重要な法案であるにもかかわらず、わずか19時間の審議で幕引きを図ったことは許し難い暴挙。年金カットの新ルールの問題を国民に知られないうちに、議論に蓋をした」と、国会の議論を封じたその姿勢を批判した。
賛成討論に立った阿部議員は賛成の理由について、「丹羽君が、厚生労働省や厚生労働委員会が最優先で取り組まなければならない国民的な喫緊の課題である長時間労働と相次ぐ過労死の現実を前にして、これを是正すべく野党が提出した法案を放置したまま、年金カット法案の審議を優先させたばかりか、基本となるはずの厚労省の試算も恣意的であり十分な審議もせずに強行採決によって幕引きを図ったことだ」と指摘。「若者の非正規・不安定雇用と対をなす正社員の長時間労働やパワハラ、セクハラの横行などによる自死・過労死問題は、実は年金の大事な支え手である次世代が著しく疲弊し、その役割を担うことができないという危機的な状況の反映。このことにしっかりと対処しない政治はそもそも未来を語ることができないはずだ」と語り、解任決議案に賛成の立場を表明した。
■厚生労働大臣・塩崎恭久君不信任決議案
郡和子議員は不信任決議案の趣旨弁明で、「塩崎大臣は、年金や労働、医療、介護などを所管する大臣として真摯(しんし)に取り組まず、国民の期待を裏切り続けてきた」として、(1)高齢者や障害者、国民生活に大打撃の年金カット法案を衆院に提出し、委員会で成立させたこと(2)参院選に悪影響があると考え、年金積立金の巨額の運用損の公表を参院選後まで先送りにして隠蔽(いんぺい)したこと(3)長時間労働の是正が喫緊の課題になっているなか、過重な長時間労働を促進しようとしていること――と、不信任に当たる理由を述べ、即刻退任すべきだと訴えた。
水戸将史議員は賛成討論で、「強引に可決に導いた年金カット法案には、問題が山積しており、実態は将来世代の年金確保にとって、全く役に立たない代物だ」「将来世代の年金に真正面から向き合って抜本改革に取り組むべきで、現在最もふさわしい立場にいながら抜本改革から逃げ続け、こんな法案でお茶を濁そうとするのか」「国民の財産とも言える年金積立金を株式に大量につぎ込み、生活の糧である年金積立金をリスクにさらすことは、国民生活をリスクにさらすことも同然」などと述べ、塩崎大臣を厳しく弾劾した。
不信任決議案は採決の結果、自公与党と維新などの反対多数で否決された。
■会期延長
大島議長からなされた第192臨時国会の14日間延長の発議に対し、太田和美議員は反対の立場から討論を行った。
反対の理由として(1)TPPはもはや成立させる理由が消滅したこと(2)年金生活者の生活をさらに苦しくするだけでなく、将来世代の年金確保策としても不十分な年金カット法案を廃案にすべきであること(3)数におごる政府与党の国会軽視の姿勢が目に余ること――の3点を列挙。政府・与党に猛省を促し、TPP関連法案と年金カット法案を廃案にすべきだと訴えた。