過労死が社会問題となり、長時間労働の是正が喫緊の課題になっている。2014年には、旧民主党が主導して全会一致で「過労死等防止対策推進法」を成立させることができた。にもかかわらず、安倍政権は高度の専門知識を要する業務等に従事する労働者について、残業代支払いなどの労働時間規制等を適用除外にできる制度の創設等を盛り込んだ「残業代ゼロ法案」の成立を目指し、過重な長時間労働を促進しようとしている。

 一方、民進党など野党4党は今年4月、労働時間の延長の上限規制等を盛り込んだ「労働基準法の一部を改正する法律案(長時間労働規制法案)」を提出した。さらに、電通の新入社員が過労自殺し(※1)、労災認定されたことを重く受け止め、従来の「長時間労働規制法案」の内容に違法な時間外労働に対する罰則強化を追加し、11月15日に衆院に再提出した(写真上)。民進党は、「年金カット法案」よりも人の命に関わる「長時間労働規制法案」を先に審議するよう再三にわたって要求しているが、政府・与党は拒み続けている。

 ■法案の解説■

 現行の労働時間規制にはさまざまな不備があり、過労死をゼロにするためには法改正が必要不可欠である。現行法の問題点と本法案での対応策について詳述する。

長時間労働規制法案 概要

長時間労働規制法案 概要

1 労働時間の延長の上限規制

 現行制度では、36協定(※2)によって延長できる労働時間の限度時間は、告示である基準で定められているにすぎず、法令による上限規制にはなっていない。また、基準では、特別条項付きの協定で臨時的に特別の事情が生じた場合について、限度時間を超えた労働時間の延長を定めることを認めており、その場合の上限は設定されていない。そのため、労働時間の上限は実質的に無制限となっている。

 本法案では、36協定による労働時間の延長に上限を規定する(具体的な上限の時間については、労働者の健康の保持及び仕事と生活の調和を勘案し、厚生労働省令で決定)。それにより36協定によって延長できる労働時間に上限が設けられ、長時間労働が是正されることになる。

2 インターバル規制の導入

 現行制度では、勤務と次の勤務の間隔については、一部の職種を除き規制は存在しない。そのため、深夜まで残業させた上に、翌日も早朝から働かせることも可能であり、労働者が心身の健康を害する原因となっている。

 本法案では始業後24時間を経過するまでに、一定時間以上の継続した休息時間(インターバル)の付与を義務化する(具体的な時間については、労働者の健康の保持及び仕事と生活の調和を勘案し、厚生労働省令で決定)。これにより、休息時間が1日の間に一定時間以上確保され、長時間の連続勤務が抑制されるようになる。

3 週休制の確保

 現行制度では、使用者は労働者に対して原則的に毎週1回以上の休日を付与しなければならない。しかし、4週間を通じ4日以上の休日を付与する変形週休制が認められている。変形週休制を採用すれば、4週間のうちに4日の休日をまとめて付与し、それ以外の期間は連続して勤務させることも可能である。変形週休制は労働者に多大な負荷がかかる可能性が大きいため、導入する際には厳格な要件を課すべきである。そこで、本法案では労使協定を結ばなければ変形週休制を導入できないこととした。

4 事業場外みなし労働時間の明確化

 事業場外労働に係るみなし労働時間制は、使用者が職場外で働く労働者の労働時間を算定する義務を免除し、「特定の時間」労働したとみなすことのできる制度である。現行法では当該制度を適用できる要件が「労働時間を算定し難いとき」としか規定されておらず、安易に適用されるおそれがある。そのため、本法案は「使用者が当該業務の遂行の方法に関し具体的な指示をすること及び当該業務の遂行の状況を具体的に把握することが困難であるため」と適用条件を明確化することとしている。

5 裁量労働制の要件の厳格化

 裁量労働制は、対象となる労働者の実際の勤務状況にかかわらず、一定時間の労働をしたものとみなす制度であるが、適用される企業では、勤務状況の把握が必ずしも十分に行われておらず、長時間労働の温床になっているとの指摘もある。

 そこで、本法案では使用者が健康管理時間(事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計時間)を把握・記録するとともに、それを一定の上限の範囲内とする措置をとることを裁量労働制導入の要件とすることとしている。裁量労働制で働く労働者の心身の健康が確保されるとともに、裁量労働制の導入が抑制される効果が期待できる。

6 労働時間管理簿

 現行法では、労働者の労働時間については賃金台帳に、月給制ならば月ごとの合計の労働時間数を書けば良いことになっている。また、管理監督者など一部労働時間規制の対象外とされる労働者については労働時間数の記載の必要がない。本法案では、使用者が新たに労働時間管理簿を作成し、労働者単位での日ごとの始業・終業時刻、労働時間等を記録させることを義務付けることとしている。これにより、インターバル規制などの労働時間に関する規制等の実効性を確保できるようになる。また、労働時間管理簿は全ての労働者を対象としており、管理監督者などの長時間労働も把握・是正する契機となる。

7 違反企業名の公表

 現行制度には労働基準法に違反した企業の名称等を公表する規定はなく、運用で行われている。本法案では、厚生労働大臣が適正な労働条件の確保及び労働者の保護の観点から、違反事例について、名称等を公表できることとしている。これにより、違法な長時間労働をはじめ労働基準法違反が抑制されるようになる。

8 罰則規定

 現行法では、違法な時間外労働をさせた場合における罰則は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金とされているが、本法案では労働時間規制の実効性を高めるため1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に引き上げる。また、新たに設けるインターバル規制の導入や労働時間管理簿の調製について、違反した場合の罰則を規定する。

(民進プレス改題17号 2016年12月2日号より)

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